愛しいと、思った。 牢の中で 一応は市民である自分達を守る存在たるはずの兵士達に、不当に連れて行かれたのは冷たい牢獄の中だった。 陽の当たらぬ地下に石で造られたこの場所は、服をきちんと着ていてもどこか肌寒い。それは、目で見たイメージがそうさせるのかもしれない。 引き摺られる弟を気にかけながら、ナナミは促されるまま檻の中に入っていく。 牢の中には、先客がいた。 「――ジョウイ!!」 鮮やかな青いシャツ。柔らかな亜麻色の髪。記憶にある姿よりも少したくましいその少年は、紛れも無いナナミの大切な幼馴染、ジョウイ・アドレイドであった。 「……ナナミ……リオウ……」 弟と同じく大事な彼も無事キャロに戻っている事に安堵して、次の瞬間、彼も牢屋に入れられているという事実に気付いて血の気が引いた。 真っ直ぐジョウイに駆け寄って事の真相を聞こうと思ったものの、タイミング良く牢屋に押し込められ、リオウが放り投げられそうになった為、ぎょっとしてその身体を受け止める。 「お、ナーイスキャッチ」 「大人しくしてろよ!」 兵士達が好き勝手な台詞を吐いて姿を消す。 その後ろ姿を睨みつけ、完全にその気配がなくなってからリオウを引っ張ってジョウイの隣まで進んだ。 ひんやりとした石の床に座り込み、膝の上にリオウの頭を乗せて、ナナミはようやくジョウイを見た。 見た瞬間、少女の身体は硬直した。 少年の瞳は真っ赤で、目尻には泣いた跡があったから。 「ジョウイ!? どうしたのっ?」 その身体がギクリを震えたから、ナナミはしてはいけない質問をしてしまったのだと悟る。しかし、言ってしまったものは戻す事は出来ない。 「分かった。もう聞かない」 ナナミはほんの少し急いた口調で続ける。 一回、深く息を吸い吐いて、そうしてまた口を開く。 「だから、泣いちゃいなさい。 大丈夫だよ。お姉ちゃんはここにいるから」 右隣に座る、自分よりも高い位置にある頭を抱き締めて、少女はこれ以上ないぐらい優しい声音で言った。 ナナミの温かな言葉に、ジョウイは俯く。 涙腺が緩むのが分かった。 年下なのにお姉さんぶって全てを許す彼女に、感情のコントロールが出来なくなる。 「泣いちゃいなさい。気が済むまで」 その一言は引き金で、ジョウイはナナミを抱き締める。 一瞬瞳に映った少女の姿は、涙の原因である母の姿と重なった。 両腕で抱き締めた身体は、思っていたよりもずっとずっと小さくて華奢だった。それなのに、自分の包み込むような大きさをジョウイは感じた。 声は立たない。 それでも涙は次々と溢れた。 守りたいと願う少女の肩口に顔を埋めて、あやすように背中をさすられるのは男としてのプライドが騒いだけれど。 与えてくれる温もりが、そんな衝動を簡単に消してしまう。 「大丈夫。お姉ちゃんがついてるよ」 髪を撫でる手が、耳をくすぐる音が、これ以上ないくらい優しくて。 今だけは、何もかも忘れて泣きたかった。 その時少年が自覚したのは、少女を想う気持ちひとつ。 |