この話は「裏」要素に溢れています。
18歳未満の方、意味を解さない方、嫌悪される方はお戻りください。
閲覧は自己責任でお願いします。読んだ後の苦情は受けかねます。





















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08




「痛っ、くるし……っ」
「まだ半分しか入ってませんよ」
「ふえ……」
 ぽろぽろと涙を溢す彼女に微笑んで、骸は呼吸を整える。
 少年が動かない事に安心したのか、京子は自ら深い呼吸を繰り返した。それに合わせて、骸も少しずつ奥に進めていく。
「んっ」
「良い子ですね。そう……僕を、受け入れてください」
 頬を合わせて甘く囁けば、京子が苦痛を浮かべたまま瞳を細める。彼女の身体から、一瞬だけ完全に力が抜けたのが分かった。その隙を見逃さず、根元まで突き刺す。
 ビクンと少女の身体が跳ねた。
 熱い。温かい。
 こんなに女に気遣ったセックスも、相手と繋がっているという実感があるのも初めてだった。
「ッ」  こめかみに痛みを感じて、骸は右目を眇める。すると、京子もまた右目を押さえていた。痛みをこらえるような表情で、隠されていない左目で骸を見つめる。
 琴線に触れるものを覚え、空いている京子の反対側の手を取り、柔い掌に口付ける。
「なにか、感じましたか?」
「……はい」
 脅えた表情と赤い右目を気にしているあたり、彼女が見たものがエストラーネオファミリー時代の記憶かなにかだろうと想像出来た。
「まったく。君には驚かされる」
 一度幻を見せただけ。
 契約してもいない、特異な能力を持つわけでもないただの娘が骸を感じとる。全てを受け入れ、包みこむ。
 同情など要らぬと憤る理性は、何かに打ち震える感情にするりと負けた。少年はやや憮然として、少女の腕を首に回させる。
「いい加減、休みは終わりです」
「アっ」
 落ち着いた中をゆっくりとかき混ぜる。結合部から、破瓜の血が流れたのが感触で分かった。
「まだ終わりじゃないって、分かってますよね」
「んんッ」
 少しだけ滑りが良くなった中は、それでも骸の熱を納めきれていない。
「君、小さ過ぎですよ」
「いた、骸さ……!」
 逃げる腰を捕まえ、胸につくほど足を持ち上げて、ずくりと貫いた。
「―――っ!!」
 熱い息を吐く。
 異物に抵抗する彼女の中は骸を締め付けて逆に快感をもたらし、その心地良さに全身が粟立つ。
「全部、入りましたよ」
「う。は……い」
「どんな感じです?」
 京子は苦しげに口を噤む。せっかく血の色が戻ってきていた顔色はまた青くなっていた。
 ちらりと視界に入るガーゼの白が、少年の口を動かす。
「痛みを一時的に感じなくさせましょうか。僕の力なら出来ますよ」
 肩で息をする少女に提案する。良い考えだと思ったが、ぱちんと頬を叩かれて目を瞬く結果になった。
「なんてこと、言うんですか」
 両手で、ごくごく軽く骸の頬を張った京子は、その手を自分の腹部に当てる。
「お腹はいっぱいで、痛いし、苦しいですけど……これは、骸さんとひとつになったっていう証ですよ?
 なくしちゃ、だめです」
「……クッ。クハハハ。本当に、君って人は。マゾですか」
「ひどい。……ンっん!」
 笑ったせいで涙が零れそうだ。なぜかとても高揚していて、止めていた律動を無意識に再開していた。
「い、あゃ……あぅ……んっ!!」
 やはり顔を歪める少女の花の芽を弄る。すると面白いようにその身体が反応して、秘所もわずかに骸を受け入れる。
 それに気をよくして、ガーゼの上から傷を押した。
「傷、痛みますか?」
「あ、たりまえ……!」
「そのうち、その痛みもヨくなるようにしてあげますよ」
 涙で塗れた頬をぺろりと舐めて、奥深くまで入れた熱をずるりと抜けるぎりぎりまで引き抜き、再度埋め込む。
「……っあ、く……ッ!?」
「苦しい、なら……僕の背中にしがみついて、爪を立てなさい」
 自分の指を噛んで刺激に耐える彼女は首を横に振った。
「わ、たし、は……あなた、を、いっ……すこ、しも、傷つけたく……ない」
 抱きしめたい。優しくしたい。
 少女は今まで骸に言い続けた事を、身体で言動で示そうとする。言葉など信じぬ闇の子に、届いてほしいと目で訴える。
「良いんですよ」
「あ、ひッ」
 一際深く奥を突いて、仰け反った京子の首に噛みついて言ってやった。
「君は、背に爪を立てられたいと思える女です」
 自分が、他者に害される事を許せる日が来ようとは。よりによってその相手は、最も毛嫌いしそうな部類の人間だなんて、どれほど笑える事態だろう。
 背に回させた手が自分に縋りついた事に満足して、随分滑りが良くなった秘所を穿つ。
「ふっ……く……ン!」
 少しだけ声に甘さが混じったのが分かった。今掠めた場所がイイらしい。
 そろそろ手加減する余裕も尽きてきた骸は、ぱたたと自分の顎から落ちた汗が京子の頬を滑っていくのを見て、眉を顰めた。
「京子」
「む、くろ、さ……?」
「――っ、このまま、中に出すと言ったら、どうします?」
 探り出したポイントをぐりぐりと突きながら、冗談ではない問いを放つ。
 骸はゴムを付けていない。この状態で吐精すればどうなる可能性があるか、さすがのこの女でも分かるだろう。

 人を信じられぬ少年の、最後の試み。
 それは彼女の未来さえ左右するもの。普通ならば拒むべき男の暴挙。

 笹川京子は、眉を八の字にして、それでもやはり笑った。
「しょうがない人ですね」
 心身をズタボロにした加害者をそんな一言で片付け、抱き締める。
 ―――この女は、バケモノだ。
 自らを噛んで引っ掻く事を止めない凶悪な獣の全てを許し、温かくその胎に抱ける化け物だ。
 こんなの人間じゃない。骸の知る、人間という生き物じゃない。
「好き、です」
 イエスでもノーでもない答え。しかし、京子の足は骸の腰に控えめに絡みつく。
 自分を信じて欲しいが為にイエスと言えば、普通の判断で保身の為にノーと言えば。少年の中で、少女の存在は消えていったというのに。
 本能の女は明確な答えを口にせず、ただ覚悟を灯した瞳で応えた。
「―――ッ!? ゃ……あぁぁぁ!!」
 完全に固まっていた骸の、突然の激しい律動の再開に京子が悲鳴を上げる。
 繋がってからかなりの時間が経っていて、おまけに最後に予想外に煽られた骸の熱は解放を求めて痛いほど張り詰めていた。
「一緒に、逝き……ましょう?」
「あ……はっ……! む、くろさ……そ、こ……やめ……!!」
「っ、ここ、ですか?」
 腰を回して京子の弱いところを重点的に穿つ。結合部からじゅぶじゅぶと卑猥な水音が響いた。
 背中が細い爪で抉られるのを感じながら、骸はラストスパートをかけた。
「く……ッきょう、こ!!」
「ああああああぁぁぁっ!!」
 京子の肢体が大きく波立ち、腰と背を反り返らせて叫び上げる。絶頂を迎えた締め付けに耐え切れず、骸も深く腰を突き入れて熱を彼女の中に叩きつけた。
「…………ふ……う。京子?」
 全てを出し切って一息ついた骸は、自分の下の女を窺った。
「……あ……は……。あ、つい……」
 恍惚とした表情の京子は、半分放心した状態で言葉を零す。
 達したばかりの彼女の身体は小刻みに痙攣を繰り返して、内部に入ったままの骸を断続的に締め付けた。この感触は心地良い。このまま第二ラウンドへ突入してしまいそうだ。
 肉体的な欲望は、それよりも強く急速に湧き起こってきた睡魔に掻き消されていく。
 力を失ったものを少女の中から引き抜いて、いまだ息が苦しそうな京子を抱いてベッドに横になった。
 改めて腕に抱くと、相手がどれだけ小さくて柔らかいのか実感する。こんなものが骸を――負かしたのだ。
 どうせ悔しい心地を抱いているのだから、と少年は身体の位置をずらした。
「骸さん……?」
「眠いです」
 不思議そうに問い掛けてくる彼女の胸の辺りに顔を当て、もぞもぞと収まりの良い位置を探る。やがて眠るのに良いポジションを決めると、当たり前のように京子が骸の頭を抱いた。酷く安心した気になって息を吐く。
 セックスをしてこんなに急激に眠くなって、行為をした相手と褥を共にするなんては初めてだ。
「子守唄でも歌ってください」
 こんなおかしな発言をするのは眠いからだ。肌を通して聞こえてくる鼓動がくすぐったい。
「子供みたいです」
 くすくす笑う彼女はきゅっと骸を抱きしめた。
 あながち間違ってはいないだろう。骸は京子によって新たに生まれたのだから。もう彼女を知る前には戻れない。
「京子。君はなぜ僕にぶつかり続けたんですか?」
「今更聞きます?」
「今疑問に思ったんですよ」
「もう。――もちろん。好きだからですよ」
「何故。僕は君に何もしていません」
「あなたは最初、私にって王子様みたいでした。綺麗で優しくて。でも私を見てなかったから、逆にこっそり観察してたんです。結局何も分からなかったけど」
「それなら……」
「あなたに冷たくあしらわれて気付きました。もう私はあなたが好きだったんだって。
 好きになるのに、理由が必要ですか? 凄く短い時間だったって思いますけど……もう、好きになっちゃったから仕方ないでしょう?」
 一気に告白した彼女は、自分の心情を吐き出したのが恥ずかしかったのか顔を赤くしていた。それを誤魔化すように小さな声で歌いだす。
 やわらかく鼓膜をくすぐるのは、「Volevo un gatto nero」。
 あの日聞いた母国の民謡。
 ワニやキリンを友達にあげた少年が、その代わりに自分は黒猫が欲しいと言ったのに、その友達がくれたのは白猫だったという内容のもの。

 ――骸は悪意(黒猫)が欲しかった。  けれど京子がくれたのは愛情(白猫)で。
 黒が欲しいと、黒でなければ駄目だと言ったのに。白は黒くならなくて。
 ――歌の中の少年は、友達に「もう遊ばない!」と叫ぶ。
 ただ現実はそうはならなかった。
「Ma i patti erano chiari:」
 つたないイタリア民謡と身を包む温もりが、骸を眠りの世界へと誘う。
 とろりとろりと意識が溶けていく。
 少年は、生まれて初めて安らいだ眠りに落ちていった。
「おやすみなさい」
 優しい声に抱かれながら。






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