「海に落ちるなよ、ルナマリア。落ちても拾ってはやれない」
「イジワルね」
 そうは、言ったけれど。



「たとえ私が海に落ちたとしても拾わなくて良いのよ。拾わないで」
 激しい戦闘を追え、ブリーフィング・ルームに戻ってきたルナマリアは言った。
「分かってるでしょ、レイ」
 鬱陶しそうにメットを取ったレイはわずらわしげに頭を振り、ルナマリアを見下ろす。
「私が海に落ちようが、撃たれて死のうが、構うんじゃないわよ」
 強い紅の双眸が、確かな軍人の覚悟を持って自分よりも強い上官を睨みつける。
 それに返されるのは、捨てられた子犬のような瞳。
「無理だ、ルナマリア」
 常に揺ぎ無く立つ男の、弱々しい断定。
「それは、無理だ」
「レイ!!」
 少女の厳しい声音に、青年は瞳を細める。
 軍人としての意識は彼女の言い分の正当性を認めるのに、レイはその選択を承知しない。
 仲間を見捨てられないという建前はある。だがそんなものは塵のように吹き飛び、自らが生き残るのが第一であるのが戦場だった。
 だが、レイはどれほど自分が危険であろうともルナマリアを助けるだろう。
 彼女がそれを望まなかろうと、それで勝利を見逃しても。
「お前よりも優先されるものはない」
 彼にとって、彼女こそが優先されるべきもの。
 絶対に失ってはならないもの。
「馬鹿レイっ!」
 高潮する少女の頬。
 それは恥じらいなどではない、純粋で強烈な怒りからのもの。
「お前が海に落ちようと、溶岩に落ちようと、俺は拾う」
「レイ……っ……!」
 指揮官用パイロットスーツに包まれた腕が、ザフトのトップガンを示す赤いパイロットスーツを着る細い肢体を抱く。
 戦闘で疲労した肉体は男の拘束を撥ね退けられず、せめてもの抵抗に、くっつきたがる彼の頭を拒否するように顔を背ける。
「あんたは間違ってる」
「分かっている」
「そんな事、私は許さない」
「そうだろうな」
 甘い香りなどしない、戦って汗をかいた恋人の首に鼻を押し付け、頚動脈の上に唇を置いたレイは続ける。
「だがお前も、そうするだろう?」
「――しないわよ!」
 言葉とは裏腹に、すかさず背に回され、爪を立てるように抱き締めてきたルナマリアの手に、レイは笑むように瞳を閉じた。

*12話レイルナシーンから妄想。レイが子犬みたいです(汗)






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