体重計に乗った少女の一言。
「あ、また痩せた」
 共にいた妹の眉が、急角度に吊り上がった。


「お姉ちゃんはどうしてそんなに痩せるのよっ」
「知らないわよ、そんなの」
 メイリンがぷりぷりと怒る原因がいまいち分からず、辟易しながらルナマリアはシャワールームを出た。
 常日頃痩せたい痩せたいと願う少女からすると、あっさり痩せたなんて言う同性は憎い存在なのだ。赤服の彼女は、そういう女性らしい心の機微にとことん疎かった。
「隠れてダイエットしてるんじゃないの?」
 可愛い顔の妹にジト目で睨まれ、ややシスコンの気がある姉は苦笑する。
「あのねぇメイリン。私はパイロットなの。そもそも運動量が違うでしょ?」
 MS操縦は技術も体力も必要とし、さらにそれを維持していかなければならない。管制官であるメイリンとは日頃の訓練内容からして違うのだ。
「それは分かってるけど〜」
 まだ不満そうに唇を尖らせるメイリンに、これはダメだと思ったルナマリアは早々とカフェテリアへ退散しようとする。
 と、そこで後方から小さな靴音。
 姉妹が仲良く振り返れば、見知った人影が歩いてくるところだった。

「レイ、聞いてよ。お姉ちゃん、また痩せたんだって!」
 これ幸い、とメイリンがまくしたてる。
「メイリン!!」
 体重の増減など誰に知られても良いが、よりによって、唯一知られてはいけない人物に申し立てなくても良いではないか。
 ルナマリアが慌てた事で、やってきたレイの顔が気難しくなる。
「またか?」
「………………」
「ルナマリア」
「はいはい。そうですよ。また痩せました」
 ミネルバのザフト・レッド唯一の女性兵士は、ひどく痩せやすい。精神的にも肉体的にもタフなのは間違いないが、なぜかあっさりと体重が落ちるのだ。
「少し太れ」
 すかさず閃くルナマリアの右腕。
 格闘訓練でもめったに出ないスピードで、レイの鳩尾にヒットする。
 彼が腹筋に力を入れ、身を退くのがあと一瞬でも遅かったら、間違いなくひどい事になっていただろう。
 迷いのないパンチだった。
「私だって好きで痩せてるわけじゃないわよ」
 太れと言われて良い気分になる女はいない。それがたとえ、体重増減にさほど感心がないルナマリアだとしても、だ。
「でもルナ、ウェイトって重要だろ?」
 レイの後方から歩いて来たシンが、ルームメイトに生暖かい視線を投げながら同僚を諭す。
「そりゃあ、まあね」
 現在の主な戦闘方法はMSによる銃撃戦だが、いざ白兵・格闘になればウェイトは非常に大きな要素となる。攻撃・防御に渡り、ある程度の重さが必要とされるのだ。
 ルナマリアも兵士である以上、その辺りの事は理解している。
「レイは言い方に気をつけろ。いくらルナだって女なんだから」
「"いくら私だって"ってどういう事よ、シン!」
「あー、はいはい。俺が奢るから、何か食べに行こうよ。落ちた分、取り返せば良いだろ」
 噛み付いてくるルナマリアを、幼かったとはいえ妹という女が身近にいたシンはあっさりと受け流す。
 レイは彼の手際の良さに小さく「覚えておく」と言ってルナマリアに睨まれつつ、少女の背を押す同僚に続いた。
「メイは? 奢るよ?」
 じゃれあうように口喧嘩をしながら歩いていくレイとルナマリアの後ろで、シンが当たり前のように振り返って尋ねる。
 体重計の100gの上下にも心揺らす自分や同僚の女の子達とは全く違う次元で話すパイロット達に舌を巻いていたメイリンは、しばし逡巡した後、重々しく口を開いた。
「…………行く」
 姉の体重減少を羨む正真正銘の乙女メイリン・ホーク。
 どうやら今回は、後日の憂鬱よりも現在の食欲を満たす事を選ぶようである。


aloeさんとの会話から。 ほえほえザフト4人組。




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