人のいない、空が見える場所。
 そこは、しょっちゅう細い煙が上がっている。



002:何故、そんなにも君は



「まぁた吸ってる」
 煙の原因がなんであるか知っているナナミは、色々な感情がない交ぜにした言葉を放った。
 それを頭上よりもらったのは、吐息とともに紫煙を生産している少年である。
「ほんと意外だよね。ルック君が喫煙家なんて」
 めったに人が通らない通路の手摺に肘をつき、少年のこの行動を知る、彼に最も近しい少女は溜息をつく。
「身体に悪いよ」
「だから吸うんだろ」
 ルックが吸う細い煙草は彼特製のもので、市販のものと違い中毒性はなくヤニ臭くもないが、その分というか人体への悪影響は通常の2倍強という、なんとも良し悪しの判断がつけにくい品だった。
 そんなものを、ルックは頻繁に吸っている。
「ルック君が自虐的なのは知ってるけどね」
 そのくせ他人には、毒に等しい煙がいかないように風を操ってまで配慮するのだ。
 複雑でシンプルな彼を理解するのは難しく、人は彼を敬遠しがちだった。
「それでルック君が倒れたら、私は悲しいよ」
 小さく溜息をつくナナミの顔は悲しげで、それを見なくても分かっているルックはぽつりと言った。
「……分かってるよ」
 唇からタバコを離し、紫煙を吐き出し終えたルックは更に続ける。
「でも、吸わずにはいられないんだ」
 ―――傷付けられずにはいられないんだ。
 ナナミにはそう聞こえた。
 それはきっと、少年の偽らざる本音だろう。


「しょうがないなぁ」
 再び彼の口に戻った煙草を奪い取ったナナミは、つられて自分を見上げるような体勢になってしまったルックに笑いかけ、身を乗り出す。
「そういう時は、ナナミちゃんがどうにかしてあげましょう」
 唇と唇が触れる寸前、彼女は驚く少年に歌うように語りかけ、彼に口付けた。



 ―――――その後、ルックの喫煙本数が減ったかどうかは、2人のみが知る。







・ おまけ・

「んーっ、んんんっ」
 自分からキスをしたナナミだったが、いつの間にか後頭部をしっかりを掴まれ、触れるだけの口付けは深まるばかり。
 離せと服を髪を引っ張ったりして抗議しても、ルックの手も唇も離れていかなかった。
 ナナミが甘い口付けに酔わされ、くったりと身体の力を抜いた頃に、ようやく解放してくれた。
 身体に力が入らないナナミはそのまま手摺に凭れていたが、煙草を揉み潰したルックが彼女を抱き上げる。
「じゃあ付き合ってもらおうかな。
 たまには外でやるのも良いと思うよ」
 朗らかに言うルックは楽しそうですらある。
 が、それと対照的に、ナナミの顔からは血の気が引いていく。
「そ、そういう意味じゃないぃぃぃぃぃぃっっ」
 少女の全身全霊の叫びは風に阻まれ、城の者誰一人に聞かれることなく散っていった。



*突発的に喫煙ルックです。喫煙している姿は絵になりますよね。





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