見慣れた紅はひどく鮮やかで、どこにいても見つける事が出来る。
 色彩豊かなコーディネイターの中でさえ、彼女の色はレイの目を奪っていくのだ。


003:貴方は私を見ていない


 赤服と呼ばれるザフトのエリートパイロット達。
 クリムゾン・レッドの制服もまた鮮やかな色をしているというのに、レイはルナマリアをすぐに見つけた。
 どうやら彼女は、別の部隊の赤服と話しているらしい。
 談笑する彼等はまだ遠いレイに気付かず、彼の見知らぬ赤服はルナマリアの額を指で弾いた。
 額を小突かれて怒るルナマリアは、それでも次の瞬間には笑っている。

 レイの視線を独占してやまない、あの笑顔で。

「レイ?」
 不思議そうに覗いてくるルナマリアに、レイは自分がいつの間にか自室に戻っている事に気付いた。
 自分とルームメイトのシン以外に、この部屋に入ってこられるのは彼女しかいない。
「さっきちらっと見えたんだけど、ふらふら帰ってくからどうしたのかと思ったわよ」
 女性にしては少しハスキーな声が鼓膜を震わす。
 勝気なようでいて優しい面も併せ持つ彼女は、この時は確かに心配してくれていた。

 瞳に浮かぶ己を案じる色を見詰めたまま、少年は細いと思うルナマリアの手首を掴む。
 軍人とはいえ、女性特有の軽いウェイトである彼女は呆気なく引っ張られ、レイの胸元に顔を埋める事になってしまった。
「ちょっと、レイ!?」
 驚いて身を離そうとするルナマリアの腰に腕を回して拘束し、薄い肩に頭を預ける。

 彼女からは何の匂いもしない。
 甘い匂いも、何も。
 それが心地良い。

 今この時だけは自分のものであるルナマリアを覗き込めば、どこか諦めたような顔でレイの腕の中に収まっていた。
 かち合う視線。
 それに誘われるように、レイは彼女を顔に自らの顔を近づけていく。

 瞳を閉じて、あと10cm…………。


 どすっ………………


 部屋に響いたのは、唇と唇が触れ合う音ではなく、鈍く思い音だった。
 正確に言うならば、ルナマリアの拳がレイの鳩尾にクリーンヒットした音だった。

 考えもしなかった攻撃に、さしものレイも息を詰めて痛みをやり過ごす。

「私は都合の良いオンナじゃないのよ」
 エリート中のエリートと言われる男に大ダメージを与えた女は、高らかに宣言して身を翻す。
「行動の理由を説明出来るようになるまで、寂しく一人で寝てなさい」
 クリティカル攻撃に加えておあずけ宣言までし、ルナマリアは早々と部屋から出て行く。


 彼女を見送るしか出来なかったレイ・ザ・バレル少年の背は、物悲しいの一言に尽きた。






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