触れる事を、ためらわないわけではなかったけれど。


007:願いはただ一つ
(うかさんへ。坊ナナ)



「ねぇナナミ、いつか僕の中で死んでくれる?」

 それは、ひとつの賭けだった。
 人生を左右するほど大きな、ひとつの賭け。
 彼女は頷き、賭けは勝った。

 もっとも彼の信条は、「負ける戦はしない」であったのだが。


 触れる。
 焦がれてやまなかった温もりに。
 腕の中に閉じ込めて、かき抱く。

 モンスターをなぎ倒す戦士の身体は小さく細く、少年の腕の中にすっぽりと収まった。
「小さいね」
 耳たぶをかじって、耳の奥に息を吹き込めば、触れている肌に鳥肌が立つのが感じられてシズイはぞくぞくした。  逃げ腰になっているナナミの身体を腕で拘束し、左の瞼に口付けてそのまま舌で舐めていく。
 眼球を愛撫するように。

「シ、ズイさん」
「嫌?」
「……シズイさんなら、嫌じゃないけど……怖い」
 正直な発言に少年は笑い、舌を離す。

 唇はナナミの顔を離れ、ゆっくりと下の方へと伝っていった。

「ん……っ……」

 白い首筋に唇を寄せれば、そこからは熱と鼓動が感じられて。
 時々吸うと、普段は聞けない甘い声。

 それだけでもう愛しくてたまらなくなる。

 ―――この想いは、いつか彼女を取り殺すだろう。
 そう分かっていても止まらない、溢れる気持ちを、なんと呼ぶのだろう。

 良く着慣らされた道着を肌蹴させながら、愛しい少女の香りに良いながら、シズイはぼんやりと思う。

「シズイ、さん」

 感じ出した快楽に喘ぐ少女は、それでも強さの消えない声で男を呼んだ。

「迷いながら、抱かないで」

 今まで行為の一環をしていても、どこかで人事のように捉えていたシズイは、その一言で何もかも現実に引きずり出されて息を詰める。

 彼女の事を甘く見ていたのかもしれない。
 そして、それが通じる相手ではなかった。


「――――僕を起こした事、後悔しないでね?」

 明らかに輝きの違う男の眼に、ナナミは自分の発言が間違っていたのかもしれないと、思わず後悔してしまった。

「責任を取って。
 僕の手で、僕のナカで、僕の為に死んでくれ」

 うっそりと微笑む英雄は、右手に宿す紋章そっくりに見えて。

 ナナミは明日、自分が生きているかを心の底から心配した。






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