その一途さが、愛しかった。


014:それしか出来ない




 自分とは正反対の少女。
 力を抜く事を知らないで、自分を甘やかす事を知らないで。
 身体も心も傷だらけにして突き進む。

「シーナ、君……っ」

 吐息交じりの呼びかけは耳から身体の奥へ落ちていく。
 落ち続けたそれは、奥底に眠る火を目覚めさせた。

「声、聞かせてよ」

 耳元で囁けば少女の肢体はぴくんと震えて、薄く色づいていく傷だらけの肌が否応なしにシーナの興奮を高めていく。

 城中を明るくさせる彼女の声。
 それと同じで、けれど違う今の声を知っているのは自分だと思うとひどく満足する。

 ピンク色の道着を脱がせようとして、ふと思いつく。
 服に隠れて豊かな膨らみの間、彼はそのまま顔を埋めた。

「え? シーナ君……?」

 鼻腔をくすぐる、太陽と石鹸と――かすかな甘い匂い。
 シーナが慣れた香水の香りではない、健康的で色気のないそれは、青年をとても優しい気持ちにさせて少しだけ身体の熱が下がった気がした。

 が、その香りの奥の奥。
 嗅ぎ慣れて麻痺した鉄臭い匂いがした気がして、彼は却って昂ぶる自身を自覚する。

 わずかに見える肌に刻まれた、無数の傷痕。
 彼女が彼女たる証。

「……覚悟して」

 彼女の手を握り、上着の端を口に咥えたシーナは、その双眸に飢えた獣の光を灯して言う。

 優しくしようと、そう努めようと、一応は決心していたのに。
 それをいとも簡単に打ち崩したのは彼女本人。

 言いがかりである事は承知の上だったが、彼は真実になんて目を瞑る。

「俺は本気になると怖いよ」

 ナナミをぞくりとさせる妖艶さで笑いながら、シーナは彼女の攻略を開始した。


 ――どこかで血の匂いをさせる身体に刻まれた傷痕全てに、口付ける事を決めて。



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