「ルナマリア!!」
 恐怖。絶望。
 そうして世界は無意味となる。

015:大切なんだ、何よりも



 機体のセンサーが、無感情に味方機―ルナマリアのザクウォーリアの被弾を教える。
 モニターに映るのは、大破した紅い機体。
 彼女が乗る、立ち上がらないザクウォーリア。

 足元から這い上がり、同時に、背中から落ちていくひやりとした冷たさ。
 悪い、予感。
 操縦桿を握る手こそ震えなかったけれど、グローブに包まれる手は冷や汗で湿っている。

 常時繋がっている、MS管制官―メイリンの悲鳴は、あれ一回きりだったが、通信回線越しに叫びたい不安を共感する。
 ルナマリアは、どうなった―――!?

 世界が赤一色に見える。
 燃え落ち、爆散するMS、護衛艦、空母、すべてがどうでも良くて、なにもかもが敵に見える。
 ここは確かに戦場だけれど、彼女を傷つけた者を許しはしない。
 たとえ本人が覚悟の上であっても。

 赤。
 それは血の色。
 それは、彼女の色。
 彼女の真っ直ぐな髪、やわらかな身体を流れるものの、色。

「――――――――――――っっっ!!!」

 声ならぬ絶叫。
 フラッシュバックする記憶。


『たとえ私が海に落ちたとしても拾わなくて良いのよ。拾わないで。
私が海に落ちようが、撃たれて死のうが、構うんじゃないわよ』
『無理だ、ルナマリア。
 それは、無理だ』
『レイ!!』
『お前よりも優先されるものはない』
『馬鹿レイっ!』
『お前が海に落ちようと、溶岩に落ちようと、俺は拾う』
『レイ……っ……!』


 あの時の言葉は、嘘ではない。
 たとえルナマリアが死の淵に落ちたとしても、レイは彼女を拾いに行くだろう。

「死なせるものか……!!」

 その為に、向かってくるもの、目に映るもの、全てに死を。
 戦闘の行方なぞ、知った事か。


 襲いくる恐怖と戦いながら、レイはトリガーを引き続ける。


 温かな彼女を腕に抱く、それだけを願って。


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