ねえちょっと、聞きなさいよ。


059:君はもう隣にいない



 京子とはね、たとえ高校とか大学とかが別になっても、メールして電話して、たまに会って遊んで、長く友達でいるんだと思ってたのよ。
 大学とか卒業して……きっとOLとかになってさ。キャリアウーマンになったり、逆にすぐ誰かと結婚して主婦になったり。
 多少なにか変わるんだろうけど、そんな風に行くんだと思ってた。

 冷めてるって? 中学生の女の子はあんた達よりずっと現実的なのよ。

 それが何よ。
 京子はいつの間にか海外と日本を行ったり来たりするようになってて、果てはイタリアに住むって言い出すし。
 普通に勤めて、外国の男と恋愛結婚してそうなるなら私だって納得したけど、そうじゃないでしょ。
 就職先、よりによってあんた達がいるとこだって?
 あんたの会社なんなのよ。
 京子があんな強い顔で話すようなトコ、絶対まともじゃないわよ。分かるんだから。

 そんな、表向きの会社説明なんて要らないわよ。馬鹿。
 話せないってわけね。
 そうよね。京子だって言わなかったんだから。
 どんなに私が言っても、何にも言わなかったんだから、あの子。

 うるさい。泣いてて悪いの?
 私の京子、返してよ。
 大事な子よ。友達なの。親友よ。
 あんた達みたいな危ない奴等に……あげたくなんか、ないんだから。


 落ち着いたわよ。そんな困った顔で見ないでよね。
 これはお酒のせい。言ったって良いでしょ。もう二度と言わないわよ。
 京子、きっと傷つくもの。

 は? 何言ってるの。大切に決まってるじゃない。


 ……ねえ。
 京子とあんた達、たまには帰ってくるの、よね?
 待って。言わないで。
 帰ってくる。私はそう信じてる。

 そんな顔しないでよ。
 嫌よ。私は分かりたくないからね。


 沢田ぁ、あんた酒強かったのねぇ。
 私もそう弱くないと思ったんだけど……今日は、なんかもう、眠くて。
 これから……京子が、来るのに。



「ツナ君」
「ああ、京子ちゃん」
「あれ。寝ちゃったんだ、花」
「度数高い酒、カパカパ飲んでたからね」
「……そう」
「愛されてるね、京子ちゃん」
「うん。私も愛してる」
「妬けるなぁ」
「女の子のトクベツな絆だから」
「引き裂くオレを、黒川は怒るだろうな」
「花に怒られる道を選んだ私も、一緒に謝るよ」


「ばいばい、花。ごめんね、ありがとう」
「さようなら。ごめん、黒川」



 別れの言葉なんて聞いてやらない。
 いつか、おばあちゃんになっても良いから、いつか。

 帰ってきなさい、京子。




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