クシュクチュンとヒバードちゃんがくしゃみを連発するから、帽子とマフラーを作ってあげた。
 編み物はあまりした事がなかったけど、ちっちゃいミニチュアを編むのは楽しかった。
「キョーコ、キョーコ! ヌクヌク〜!!」
「気に入った、ヒバードちゃん」
「アッタカ!」
「ふふ」
「何してるの?」
「雲雀さん」
「ヒバリー!」
 毛糸でくるくる巻きのヒバードちゃんを見て、飼い主さんはむっつりと黙り込んだ。
 勝手な事をして怒っているのかな?

「京子」
「は、はい!」
 たとえ彼氏だって言っても、機嫌の悪い雲雀さんの低い声はびくっとなってしまう。
 思わず背筋を伸ばした私に、彼は小さくため息をついて、言った。
「僕の分は?」
「え?」
「鳥に作って、僕に作らないなんて事はないよね?」
「雲雀さんが、手編みの帽子とマフラー? ……欲しいんですか?」
 彼とはまるでイメージが合わなくて、つい問い返してしまった。
 まじまじと見る私の前で雲雀さんはそっぽを向く。
「一週間待ってあげるよ。なかったら鳥がどうなるか覚えておいて」
「ヒドイ! ヒバリ、ヤキモチヤキー!」
「羽根を毟り取るよ、鳥」
「キャーッ!! タスケテ、キョーコ!」
 慌ててこっちに飛んでくるヒバードちゃんをキャッチして、私は放課後に手芸屋さんへ行こうと決心する。

 期間は一週間。
 それまで、ゆっくり眠れる日はあるだろうか。

 でも、拗ねる雲雀さんが可愛かったから、なにがなんでも間に合わせたいと思っちゃう私は、ほんとに彼の事が好きなんだぁと再認識した。




 どうにか作り終えた帽子とマフラーは、ヒバードちゃんに作ったものと同じデザインで、色だけ黒に変えたもの。
 編み物初心者の私は、技巧を凝らしたほかのものは作れなかったのだ。
 帽子にポンポンがついていたから憮然としていた彼だけど、それでも受け取ってくれた。

「君の目の下の隈が取れたら、出掛けようか」

 その日に使うよ、とほんの少しだけ無邪気さのある笑顔で、そう言って。




067:ひとときの、ゆめ




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