その姿があまりに懐かしかったから、昔のように抱きついた。
「京子姉!」
「きゃあっ!?」
 昔のように。
 その、つもりだった。
 けれど腕の中には、あまりに軽い身体。
 抱きついたのではなく、腕に抱きこんだのだと、一拍遅れて気がついた。


「フゥ太君〜、びっくりしたよ」
「京子姉って……こんなに小さかったっけ?」
 どこか呆然と問う。
 なんて小さい。なんて細い。
 憧れの女性を軽々と持ち上げている自分に、ひどく驚く。
「フゥ太君が大きいの。今のフゥ太君は私より年上でしょう?」
 確かに年齢だけで言えば年下になった彼女は、しかし「年上のお姉さん」といった口調でフゥ太を見上げる。
「ああうん……そう、だよね。
 今の京子姉は、僕より年下なんだよね」
 まじまじと十三歳の笹川京子を見つめる。

 短い髪。桜色の唇。柔らかいけれど、まだ骨っぽさがある肢体。
 可愛らしい少女。

 フラッシュバックする、二十三歳の笹川京子。

 長い髪。薔薇色の唇。熟れた果実のような、しなやかな肢体。
 匂い立つ美しさの女性。

 憧れ、焦がれる彼女。
 ――フゥ太のものにはならなかった。

「フゥ太君……?」
 不思議そうな顔でこちらを覗きこんでくる京子の首に鼻を埋める。京子が驚きの声を上げて身を竦ませたが、構わずそのまま香りを胸に吸い込んだ。
 香水も、他の誰の匂いも纏っていない彼女の香り。
 さすがの彼女も逃げようとしたが、フゥ太がふざけて彼女を腕に抱き上げたままで足が地についておらず、逃げようにも逃げられない。
「フゥ太、くんっ。な、にを……!?」
 どうにかこちらを引き剥がそうとする彼女の抵抗を些細なものと思えるほど、自分は成長した。京子は――か弱い少女に戻った。
 腹の奥から湧きあがる熱を抑え切れず、細い首をチロチロと舐め上げる。
 眩暈を伴う渇望。頭の奥で光がチカチカと明滅する。
 止まらない。
「好きだよ、京子姉……」
 熱に浮かされた囁きを、真っ赤になっている少女の耳に吹き込む。彼女が何か言う前に、唇を自分のそれで塞いだ。
 何を言うつもりだったのか。
 誰を呼ぶつもりだったのだろうか。
 逃げ惑う舌を捕まえ、貪って。
 真白な少女を自分の色に染めんと、攻めていく。
「は……っ……」
 くたりと身体から力が抜けた彼女に酸素を与えるべく、少しだけ顔を離す。鼻にかかった声は甘く、フゥ太の背筋にゾクゾクしたものが走った。
「京子姉」
 肩を激しく上下させる彼女の薄く開いた唇から舌を差し込んで、震える舌を舐める。

 今のあなたはあの人のもの。
 けれど、昔のあなたはまだ、誰のものでもない。

 そんなところにつけこむしかない自分の不甲斐なさに目頭が熱くなっても、それを飲み下して望むものがある。
 少女を恐がらせないよう、精一杯優しく笑った。


「ごめんね。でも僕、あなたが欲しいんだ」


 これからの行為は、優しさとかけ離れたものだったから。




084:彼方の夢





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