遠くに探していた人を見つけて、顔が笑うのが分かった。 久々に会えるその友人の隣には見覚えのある男の人。 淡い色の髪の彼女とは対象的にスーツよりも黒い髪の彼は、冷たく涼しい表情の中の瞳にありありとした愛情を浮かべている。 昔は無表情な人だと思っていたけれど、実は表情豊かなのだと彼女が教えてくれた。そして、彼女がいれば確かにそれは真実だった。 並盛で恐れられたあの人のとろけるような甘い顔。どれだけの愛しさを以って相手を見ているのかが分かる。 彼は可愛くてたまらないという風に話していた彼女の腰を引き寄せ、その頬にキスを落とした。 ここは空港で、人のごった返す到着ロビーで、公共の場なのだけれど。 まさか彼がこういう場でああした行為をするとは思わなくて、まじまじと二人を見る。 彼女は額に手をやり、唇を尖らして抗議をしているようだったが、彼はしれっとした顔でこちらを指差した。 間違いなく自分を差している。 気付いていたらしい。 彼女はこちらを見てぱっと顔を明るくして、軽く手を上げた。もちろんこちらも手を振って、根が生えたように動かなかった足を進ませる。 今まで彼女の傍を離れなかった彼が一言二言なにかを言って、どこかへ去って行った。 「ハルちゃん!」 林檎みたいに頬が赤い友達が名前を呼んでくれるから、昔と同じように飛びつく。わわ、とは言いながらも、彼女は危なげなく踏みとどまってくれた。 「お久しぶりです、京子ちゃん!」 「久しぶり。良く来てくれたねっ」 「皆さんに会う為なら!」 きゃあきゃあと学生に戻った時のようにはしゃぐ。なんて懐かしい空気。 お互いの近況を語りながら、腕を組んで車が置いてある場所へ向かう。あの人が戻ってくる気配はなく、彼女が運転席に滑りこんだ。 「雲雀さんはどうされたんですか?」 「お仕事に行ったよ。恥ずかしいとこ見られちゃったな」 恥らいつつ説明してくれる友達に、つい言葉が滑り落ちた。 「羨ましいです、京子ちゃん。あんなに「好きだよ」って態度で示してくれる人が恋人なんて。ハルもそんな人と恋愛したいですっ」 車のキーを回した彼女がゆっくりと顔をこちらに向ける。 「――――大変だよ? あの人の"好き"は」 わずかに首を傾げ、やや虚ろな表情に遠い目。 ぎょっとして、穴が空くほど彼女を見る。 いったい何が。いや何をされたのか。色々な言葉が頭を駆け巡って、わたわたと両手を動かす。 諦めと疲れが混じった友人の微笑み。そこにかすかに別のものも見つける事が出来てほっとした。 車の振動が鈍く後押ししてくれて、声が口をついて出る。 もう。心配させないで。 「京子ちゃん。でも、幸せなんでしょう?」 彼の愛はあれほどまでに分かりやすく、大きく、強く――重いのだろう。 時折彼女は大変な目に遭っているのかもしれない。 それでも。 「うん」 やっぱりお友達は綺麗に、愛溢れた笑顔をする。 やっぱり羨ましい恋人達に幸あれ! イタリアの空、ハルは嫉妬混じりに胸中で叫んだ。 15 それもまた一興 |