家のひとつに遊びに来た恋人の手から、ひらりと落ちた一枚の写真。
 拾い上げて見てみれば。

 すかんとどこまでも青い空。厚みのある入道雲はこの季節特有のもの。
 暑さすら一瞬忘れさせる好天の下、笑う二人の少女。
 鮮やかな水着の色が、白い肌より眩しく見せる。

「………………何これ?」

 雲雀の機嫌は急降下した。



33 たくらみ笑顔



「雲雀さん?」
「京子、何これ?」
「あっ。落としちゃってたんですね。すみません」
 謝罪し、手を伸ばしてくる京子から写真を遠ざけ、睨み付ける。
 鈍い彼女もそれでようやくこちらの不機嫌さを理解したらしい。眉を八の字にして説明を始めた。
「この前、友達と海に行った時の写真です、けど……」
「この水着は?」
「花とハルちゃんが選んでくれた今年おニューのです」
「僕は知らないし、まだ見てないんだけど」
「え?」
 襟足で踊る大きなリボン。細い腰の両側で同じ形のそれが揺れて、少ない布地が華奢だがスタイルの良い肢体をわすかに覆う。
 似合ってはいる。
 だがこれは、肌を隠す面積が少な過ぎるだろう。
 そんな水着を着る京子を雲雀はこの写真で初めて見た――自分の女であるはずなのに。
「後ろに草食動物が写ってるけど、誰と行ったわけ?」
「花とハルちゃんと、ツナ君と獄寺君、山本君、ランボ君にイーピンちゃんのみんなとです」
 やりとりをする度に纏う空気を冷たくする雲雀に、京子はやや怯えた表情で答える。
 直感や観察眼は優れている少女だが、鈍いところはとことん、それこそ犯罪的なほど鈍感だ。雲雀の怒りの理由だって気付かない。
「僕の許可なくこんな水着を着て良いと思ってるわけ?」
「えっ!?」
「その上、他の男と出掛けるなんて」
 驚き、うろたえる京子の手首を捕らえ、軽い身体を引き寄せる。
「僕以外の男に肌を見せるなんていけない子だ」
 大胆な水着で、草食動物達との遊び。
 何より雲雀が許せなかったのは、その身体に自分がつける印が見当たらなかった事。
 いつも痣になるくらい強く、数えきれないくらい刻んでいたのに。
 夏休みという学生らしい制度が、水着を着られるくらいにはそれを消した。
「君が誰のものか、ちゃんと分からせてあげなきゃね」
 じたばた暴れる少女の耳に吐息を落としこむ。
 京子が耳とこの声に弱いなんて知り尽くしていた。身体をぴくんと揺らした彼女を抱き上げる。
「雲雀さんっ」
 膝の裏をがっちりホールドし、寝室への道を進む。腰に回した手はTシャツの裾から侵入し、柔肌をまさぐっていた。
「やっ、く……」
 刺激に打ち震え、しがみついてくる京子に雲雀の口角が上がる。無垢だった少女に艶を与えたのは自分だという自負と満足があった。

 寝室のドアを開け、整っているセミダブルのベッドに京子を降ろす。
 短い移動中で既に頬を赤く染め、息を乱す彼女の太股の上を跨いで、ギラつく欲望を隠さぬ男は宣告した。
「君が帰らなきゃならない日までに、どれくらい出来るか楽しみだね」
 父親は急な出張、母親は友達と旅行、兄は部活の合宿――揃って帰宅は三日後で、その間(勿論内緒で)雲雀の家に泊まる事になっていた京子は赤かった顔をざーっと青くした。
 こちらの意図する事を察したらしい彼女に雲雀は笑む。曲々しくも美しい、欲情に塗れた笑顔だった。

「僕以外の前で水着なんて着られないようにしてあげる」


 それ以降、この夏に京子の可愛らしい水着姿を見た者はいない。


京子ちゃんの可愛い水着姿から。
けしからん愛らしさでした!




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