人が溢れるデパートの一階、和洋色々なお菓子屋が並ぶ一角は、バレンタイン間近な現在、店側は販売に力を入れ、老若の女性がこぞって訪れる場所だった。
 人混みに辟易しながら例に漏れず来店していたら、ひとつのディスプレイに目が釘付けになる。真っ白な箱にピンク色の薄紙。桜の形と色をしたチョコに、シンプルスタンダードなスクエアのチョコにも流麗な印刷が入っている。
 一目見て、あの子に似合う、あの子が好きそうな品だと思った。
 じいっと見ているとすぐさま店員がチョコの欠片を爪楊枝で刺したものを「どうぞ」と差し出してきたので、謝辞を返して味見する。
 店員の解説を半ば聞き流しつつ、すっと口の中でほどけていくチョコの甘みを吟味する。一緒にお菓子を食べた機会は数知れず。あの子の好みの味なんて知り尽くしている。これはきっと彼女の好きな味だ。
 納得した時には、その淡い色のシリーズを一番大きな箱のものを注文していた。


 海外へ荷物を出すのも、もう随分と慣れたと思う。
 買ったチョコ以外にも日本の物を詰めた箱を厳重に梱包して、運送業者に渡した。
 ブロロロと遠ざかっていく運送業者独特のカラーリングの車体を窓越しに見送り、二月はじめの陽光を浴びながら机上のフォトフレームを手に取った。
「日本のチョコもたまには良いでしょ、京子」
 遠いイタリアの地にいる親友への贈り物。学生時代は毎年行っていた友チョコ。
 あの子が喜ぶ顔が見られないのは残念だけれど。
「思い出しなさいよ」
 近頃ちっとも帰国しなくなった写真の中の彼女にぼやいた。

「馬ー鹿っ」

 危険らしい仕事よりも、あんたにはチョコの方が似合ってるわよ。




46 お味はいかが?





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