ディーノさんは、挨拶としてハグをする国の人だ。
 だから、とても自然に抱き締めてくれる。
「よぅ、京子。久しぶりだな」
 いつ会っても、お日様みたいなからりとした笑顔と調子にほっとする。
 初めて会った時とその後の数回は緊張していたハグの挨拶。久々に会った今も、彼はいつもと変わりなく手を伸ばしてくる。
 ディーノさんの腕は背中に回り、頬がくっつけられる。手がぽんぽんと背を撫でてくれた。
 挨拶の域を出ない接触に胸の奥が揺れる。離れようとするディーノさんの服をきゅっと掴んでしまった。
「京子?」 「ごめんなさい。少しだけ、少しだけで良いから、このままでいてくれませんか」
「……おう。いいぜ」
 何も言わずに許しをくれた大人の人に感謝して、少しだけ頭を傾ける。額が彼のTシャツに触れると、香水と本人の匂いが混じった香りした。
 男女の別が無いに近い、子供の頃のじゃれあいの時に男の子とくっついた時とは違う男の人の身体の造りを感じる。
 カッコイイ異性にドキドキするより、人の体温にほっとした。
 その吐息はぴったりとくっついているディーノさんにダイレクトに伝わっただろう。私の背中に添えられているだけだった彼の腕が力を強めた。
 ぎゅうと抱き締められる、それはなんて温かい事か。
 脇腹部分の布地を引っ張っていた手をそろそろとディーノさんの背中に回す。見た目よりも逞しい広さをしっかり抱き締めると、性別も年齢も身長も国も違う人とひとつになったような錯覚を覚えた。
 いつも明るく場の中心である人の沈黙がとても心地良くて、私は目を閉じる。

 頭を空にして、その温もりに浸った。




52 リリカルノイズ




 ただただ温もりに縋りたい時。




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