薄汚れたカップがあります。


「中が茶渋で色が変わってきちゃってますね。漂白しなくちゃ」
「そうだな」


陶器を水に浸し、漂白剤を注ぎましょう。



「少し浸けておかないと駄目だな」
「お買い物にでも行きましょうか」


しばしの時間、そのままにしておきます。



「綺麗になりました!」
「ああ、真っ白だ」


漂白剤に浸かったカップを洗いましょう。



「このカップみたいに、大事なところだけを残して、真っ白になれれば良いのに」
「京子?」
「悲しい事や辛い事、嫌な自分、全部ぜんぶ、茶渋みたいに消えてしまえば」
「……オレ達はカップではないからな」
「はい」
「消えはしない。消せもしない」
「ランチアさん」


真っ白いカップがあります。


カップを使っている二人は、背中を預けあってただ黙って夜の闇に埋もれました。





96 すべてがうまく重ならない夜





何が言いたいのか分からないのですが、何か言いたかったことがあったのです。





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