この話は「裏」要素に溢れています。
18歳未満の方、意味を解さない方、嫌悪される方はお戻りください。
閲覧は自己責任でお願いします。読んだ後の苦情は受けかねます。





















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 涙で視界が滲む中、みっともなく泣き喚いた。
 自分の言葉がザクザクと胸に刺さる。その激痛に京子は両腕で顔を覆い、泣き声を堪えた。
 嵐みたいに荒れる感情に翻弄される女は、自分を強姦しかけている男の呆然とした顔に気付かない。雲雀は言われた事に驚いて動きを止め、やや時を置いて意味を理解し、彼にしては非常に珍しく恐る恐る問いかける。
「ねえ、何を言ってるの?」
 その語調の奇妙なほどのあどけなさに女は違和感を覚え、目の辺りを覆っていた腕をそっとずらす。混乱した顔の雲雀が自分を覗きこんでいた。
「どうして君に興味がないなんて」
「だって……そうでしょう?」
 まだ自分の中に先っぽが入っているものの硬さが失われていくのを感じながら、京子は投げやりに言う。自覚していなかった怒りが燃えていた。
「連絡をしてもあなたは答えてくれませんでした。会いにも行って、それを知っていたはずなのに何も言ってくれなかった」
 自分も社会人になって働く事の大変さを知ったつもりだ。
 雲雀の仕事内容が通常とは違う事を考えても、たった一行のメールか、わずか一分の電話すらかけられないというのだろうか。
 携帯電話などが使えない地域での長期の仕事か草壁に聞いた。答えはノーだった。
「放っておいても女が黙って待っていると?」
 寂しい。悲しい。
 好きだからこそ。
 会いたい。声を聞きたい。
「私はっ……そんなに、強くっ、ないんです」
 泣き顔を見られたくなくて、また片腕で目の辺りを隠しながら顔を背けた。
 京子は自らの嗚咽を聞きながら、頭の片隅で自分が少し悲劇のヒロインに酔っていると冷静に判断する。こんな時でも物は考えられるのだという事に呆れた。
 痛い沈黙が落ちる。
 京子が荒れた呼吸を落ち着かせるぐらいの時間が経ったところで、彼女は自分の頬と腕に触れてくるものに気付いた。
 動物に擦り寄られているような感覚。さらさらの髪の毛が肌に触れてくすぐったい。鼻先が甘えた動きで押し付けられる。彼のその接触の仕方に、話したいという意思を感じてそっと腕を動かした。
 飛び込むのは秀麗な雲雀の顔。眉間には皺が刻まれ、表情は懊悩に歪んでいる。
 顔を近付けられて身構えた京子だったが、雲雀は額を合わせる以上の事はせず、口を開く。
「ごめん」
 簡潔な謝罪が京子の鼓膜に響いた。そのたった一言で、止まったはずの涙がまたこみあげてくる。彼と中学から付き合っている女は、並盛の王様の詫びがどれほど稀有なものか良く知っていた。
「僕が悪かった」
 クンクンとまるで子犬みたいな仕草で鼻を擦り付けられる。背中に回った手は明らかに縋っていて、それがまた京子の胸を衝く。
 誇り高い男が形振り構わず自分に手を伸ばしてくるのはとてつもない陶酔感があり、手が自然と男の首へ回った。
「雲雀さん……!!」
 滅多に出ない謝罪だからこそ信じられると、寂しいと泣く感情よりも強いなにかが言っている。
 別れへの覚悟が崩れ、逃げようとしていた心が折れた。
 京子は細い腕で精一杯雲雀にしがみつく。
「……雲雀さん、ひばりさ……!! 会いたかった……ッ」
 泣き喚き、顔をぐしゃぐしゃにしている京子を雲雀はしっかり抱き締める。痛いぐらいの彼の力とその腕のかすかな震えに、相手が受けた衝撃が見えて罪悪感が込み上げた。

 京子の涙が枯れるまで雲雀は黙って彼女を抱き、黄朽葉色の髪を撫でていた。
「ひばりさん」
「落ち着いた?」
「はい」
 おずおずと声を出した京子に雲雀が優しく笑う。目を赤くした女も、少し疲れが刷かれてはいるがようやく晴れやかに微笑んだ。
 自分の心中に出来た傷と痂をなぞっていると、今の格好が酷いものである事にようやく気付いて頬が赤くなる。京子は片足を持ち上げられたまま、雲雀の力を失ったものが内部にまだ入っていた。
「あの、雲雀さん」
「ん?」
「ぬ、抜いて下さい」
 恥ずかしさで俯きながら訴えると沈黙で返された。硬さがないとはいえ消えない圧迫に眉根を寄せ、目だけで男を伺う。雲雀は口を尖らせて、どことなく拗ねた様子で拒否を示す。
「なんかさ」
「はい?」
「君があんな事を言うから萎えてたんだけど、今は却ってキたっていうか」
「ひゃんっ」
 急速に張り詰める熱をダイレクトに感じ、京子は身を反らせる。硬さを取り戻したものはゆっくりと内部に入ってきた。
「久々なんだしとりあえずヤらせてよ」
 熱っぽい息が混ざった囁きを耳に吹き込まれ、身体が過敏に反応する。愛しい男の余裕のない表情に、自分の中が潤んだのが分かった。
「京子」
 鼻の頭をかしと甘く噛む雲雀は返答を求めている。京子は心と身体の痛みでギシギシする心地に目を瞑り、彼の襟足を爪で軽く引っ掻いた。
「優しく……してくださいね?」
 答えは、ゆるい腰の動きで返された。


 いくつもの甘い言葉が落とされる。
「好きだよ」
 がっつかれた玄関で。
「愛してる」
 場所を変えたベッドで。
「君だけを」
 今まではもらえなかった愛の言の葉を。


 一晩中、それらは身体に降ってきて。
 京子は昔どこかで聞いた男女の遣り取りを思い浮かべた。



『あなたは愛してるって言ってくれたことがないのね』
『そんなこと知ってると思ってた』
『女は、それを聞きたいものなのよ』



 同じような遣り取りを雲雀とした後で、京子は最後に言う。
「今度あんまりにも放って置かれたら、私にも考えがあります」

「何?」
「リボーン君と浮気しちゃいます」
「……洒落にならないからやめてくれる?」
 雲雀は本気で懇願した。


 告白をしたのは自分から。
 メールをするのも、電話をするのも自分から。
 そういう人を好きになったのだと分かっていた。
 ずうっと平気ではいられないから、お願い。
 時折、あなたから答えを返して。






作中引用元
「あなたは愛してるって言ってくれたことがないのね」
「そんなこと知ってると思ってた」
「女は、それを聞きたいものなのよ」
−『グレンミラー物語』





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