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 その人は、時折ふらりと花を買いに来る。

 ビアンコ、ローザ、アランチォーネ、ロッソ。
 花みたいな色の服が、とても良く似合う人。

 ひとつ残念なのは、左腕に巻かれた包帯。
 半袖やノースリーブの時にとても目に付く白さ。
 彼女の肌はとても白いけれど、それよりももっと真白な布。

「ありがとう」

 彼女が微笑む。
 手にした花よりも美しく。
 その笑顔を見るのが、一番の楽しみだった。


 ――その屋敷がマフィアのものだと、この町で育った自分は知っていた。
 町の人々を守ってくれる、そんなファミリーのアジト。だから自分も花を届けに来る事が出来る。
「急に頼んですまないな」
「毎度どーも!」
 ファミリーの幹部直々に労われ意気揚々と去ろうとすると、すまなそうに言われた。
「悪いが今日は裏門から早めに帰ってもらえるか? 客人が来るんだ」
「それでウチに頼んでくれたんスよね。分かりました!」
 握らされたチップもありがたく受け取り、指定された裏門へ向かおうしたら、今度は目の前に黒塗りの車が滑り込んでくる。
 一目で高級車と分かるそれは、静かに自分の前で停車して、助手席と運転席からすぐに人が降りる。
 この屋敷の住人と同じ、黒いスーツに黒いネクタイ。ご同業だろう。
 まだ自分の後ろにいたキャッバローネファミリーの幹部が、慌てて屋敷の方に声をかけるのが聞こえる。
 たった今やって来たマフィアが、恭しく後部座席の扉を開く。
 一拍置いて除く、薄茶の髪。
 "あの人"と、同じ。

「あ……」

 間抜けた声が漏れる。
 ヒールの音を高らかに響かせて降り立ったのは、いつも淡い色を纏っていたひと。

 ビアンコ、ローザ、アランチォーネ、ロッソ。
 そんな色が、似合っていた()の憧れの人。

「ネロ………………」

 今はただ、黒い。
 宝石の輝きが眩しい。

 ドレスを着たその人の腕に、いつもあった包帯はなかった。
 布が覆い隠していた白い腕には、大きく刻まれたタトゥーがある

 彼女を何者か知らしめるそれは、ボンゴレのシンボル。
 なんて高々と、彼女の所有を宣言しているのだろう。

 黒を纏った闇の女が笑む。
 ボンゴレのシンボルを刻んで歩いていくその姿が、今まで見たどの彼女よりも綺麗だと思った。


 あの人は、また店に来てくれるのだろうか。
 ぼんやりとそんな事を思ったけれど、答えは分かっていた。



054:何時か消え行くもの



ようやくの思いで裏門から出た少年は、がむしゃらに走った。
その頬を涙が伝っている。
淡い恋の終わりを、彼は悟っていた。





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