青薔薇ルート青薔薇ルート設定



「おお。京子。
 10年前はこんなに小さかったか」
 そうは、言ったけれど。


 泣いて笑って、疲れて眠ってしまった妹の頭を膝に乗せ、了平は深く息を吐いた。
「お前は……こんなに小さかったんだな」
 久々に見る短い髪の妹。目尻は泣いたせいで赤い。
 本来は無茶するような性格ではないのに、自分の身を案じてアジトを飛び出したという。敵だらけの外へ、たった一人で。
「すまんな」
 心配をかけた事を詫びる。すると答えるように足に擦り寄ってきた。
 安心した妹の顔は、誰がなんと言おうと世界で一番可愛いと了平は胸を張って言うだろう。


「なあ、京子。
 お前は"今"――それは大きくなったんだぞ」
 聞こえていないからこそ、言う。
 過去へ飛んだ彼女には言えず、目の前の彼女の意識がある内は言えない了平の本音。京子の現在で、未来。
「オレにも何も言わず力をつけて、ボンゴレの女神になった。
 あの時はそれは驚いたもんだ」
 苦笑が漏れる。
 仕事帰りにボンゴレ本拠地へ行ったら、マフィアの事など知りもしないはずの妹がいた。黒い装いの彼女を見た時の驚愕を、生涯忘れまい。
「お前の炎は世界で唯一の白い炎。
 味方を守り、傷を癒し、敵を眠らせる―――ボンゴレの青薔薇、などと呼ばれている」
 この十年前の妹は、今の彼女に通じる道を歩んでいるのか。行こうとしているのか。それとも何も知らないのか。
 了平には分からない。

 自分は妹を泣かせないよう、何があっても真実を言わなかった。
 妹もまた、決意も影の努力も一言も漏らさなかった。


「なあ」

 もはや言えぬ願いを、この一度きりだと約束するから言わせてほしい。

「あまり大きくなるな」

 隣に立たなくていいから。
 女神になんかならなくていいから。

「オレの妹ってだけでいてくれ」


 わしゃわしゃと柔らかい髪をかき混ぜて、上半身を無理に折ってその頭を抱きこむ。
「ん……おに……ちゃ……」
 寝言でも自分を呼ぶ子供が愛しい。

 ――了平の妹だよ、と疲れきっているのに誇らしげな母に言われたあの日。
 その時、まだ幼かったはずの自分だが、それでも覚えている。
 しわくちゃで猿みたいだったふにゃふにゃの物体は、差し出した指を精一杯の力で握った。
 あの時の言い表せない想い。
 自分が妹を守るんだと思った。

「―――あんなに小さかったのに」

 求められるまま指を握らせて、兄は、妹の額にキスを落とした。




056:その手を、君はいつか離す




バイシャナ戦の兄は素敵過ぎました。


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