この話は「裏」要素に溢れています。
18歳未満の方、意味を解さない方、嫌悪される方はお戻りください。
閲覧は自己責任でお願いします。読んだ後の苦情は受けかねます。





















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 告白をしたのは自分から。
 メールをするのも、電話をするのも自分から。
 そういう人を好きになったのだと分かっていたはずなのに。
 ずうっと平気でいられるほど、強くはなかった。



99 涙が綺麗に流れない




 自分の家ではないマンションの鍵を開ける。
 合鍵をもらった時はとても嬉しくて、使う度にドキドキしながらドアを開けていたのは随分と前の事。丈夫で軽い素材のはずのドアが、今はやけに重く感じた。
 静かに家に入り、歩き慣れた廊下を進んでいく。
 恋人の家に置いた自分のものは回収しようとすると結構な数があって、ありとあらゆる場所に置いてある。自分がどれほどここにいたのかを改めて知らしめて苦しくなった。
 気付けば身体が自然と簡単な掃除を行っている。あまり帰ってこない家主の生活を知っているから、通う内に癖のようになってしまったらしい。テーブルを拭いていた手を止める。
「……馬鹿ね、私」
 黒い素材の上にぽつんと浮き上がるタオルの白さ。正反対の色が目に染みる。
 ――ここに来たのは、終わりにする為だった。

 自分のものをひとつひとつ手に取り、持参したバッグへ詰めていく。
 ピンク色の大きめなマグカップを買ったのは、彼と付き合って、ここへ連れてきてもらった中学の頃。
 きっと断られると思いながら告白をして、嘘みたいに受け入れられ泣いてしまったのを覚えている。
 グラス、お箸、お茶碗……キッチンとリビングだけで、どれだけ自分用のものがあるのだろう。ほとんどは幸せな学生時代に揃えた。
 バッグに入れてきたタオルで陶器を包み終わると、部屋を出て寝室へ向かう。洋服やパジャマはそちらにある。
 思ったよりも軽いバッグを持ちながら、寝室に置いてある最近唯一買い足したブランケットを持ち帰るか悩んだ。
 彼が高校を卒業して自分が興した会社で働きだしてから自然と会えない事が多くなり、遅い帰りを待つ為に購入したブランケット。電話が繋がらず、元より返信の少ないメールがこなくなって、寂しさや不安に押し潰されそうになった夜を共にした。手元に置くのは辛いなと思う。
 途中、ウォッシュルームやバスルームの側を通り、そこにあるものも集めなければと頭の中のメモに書き加えた。水に濡れているかもしれないからビニール袋がいる。
 バッグを持つ左手の時計が正午を示す。
 雲雀の後を追って、京子自身が社会人となってから一年余りで、すっかり外出時の腕時計が癖になった。
 手首を縛るものと過ごした時間は、そのまま、京子がほぼ一人過ごしてきた月日だ。
 自由な時間が少なくなった中、自分から行動を起こしてきたつもりだが、彼の答えはつれなかった。
 これが最後だと決めた電話とメールは、二月経っても返事がない。
 京子は決めた。
「……終わりに、しなくちゃ」
 呟いて、寝室のドアを開けた。


 黒い家具やシーツで色の統一された部屋は、わずかな乱れもなく整っている。
 ――はずだった。
「え?」
 ベッドの毛布は盛り上がっており、それはもぞりと動く。京子の見開かれた瞳は、黒い布地から白い肌が現れるのを見た。
 この家のベッドを使う人間は二人しかいない。
 一人は京子。もう一人は家の主。
「ひばり、さん」
 会いたくて仕方のなかった人がそこにいた。
 ドサ、と鞄が落ち、中のものが転がり出る。壊れものばかりだったが、京子はそれどころではない。
 なぜ心を決めた今ここに。
「……京子?」
 寝起きの掠れた低音が名を呼ぶ。弾かれたように京子は身を翻した。
 高級マンションの広く長い廊下を全力で走る。マキシ丈のスカートが煩わしい。玄関まであと一メートル弱。見えたゴールにほんの少しだけ安堵した女の左腕を、強い力が掴んだ。
「きゃあっ!」
 握られた手首を引かれ身体がぐんと後ろへ引っ張られる。壁に押さえ付けられて、打ち付けられた背中と手に走った痛みで一瞬呼吸が止まったが、堪えて拘束から逃げようとした鼻先を雲雀のもう片方の手が塞いだ。
 勢い良く手が叩きつけられた音に、思わず肩を竦めた。
「なんで逃げるの?」
 溶岩が冷えて固まったみたいな黒眼に覗き込まれ、あまりの視線の強さに京子は顔を背ける。怒気を隠さない男は追及を止めずに畳み掛けた。
「あの荷物は何? この家の君のものを持ち出してどうするの?」
「い……っ」
「答えるんだ」
 容赦なく左手首にかかる力に京子は苦痛の声を漏らす。思わぬ再会に動揺しているが、出来る限りの連絡を試してもコンタクトしてくれなかった男の言葉に怒りを覚えて、京子は口を噤んだ。
 それを見て取った雲雀は眉を上げ、左足で壁を蹴るようにして京子を囲む檻をさらに増やす。左右を完全に塞がれた京子は唇を噛んで俯いた。
「……もうここへは来ません」
 出来る限り冷たく、素っ気なくなるように言い放つ。
「さよならです」
 別離の言葉は京子の心臓に突き刺さる。自分で決めた事を口にするのは初めてだったと、遅れて気付いた。
「何を、言ってるの?」
 自分のものよりもぞっとするほど冷たく耳に滑り込んだ彼の声に京子が恐怖を感じる一瞬前、顔の横にあった雲雀の左手が首を掴んだ。
 気管をやや塞ぐ圧力に女の身体が跳ねる。男は無表情にそれを見ながら、鼻先が触れそうなほど顔を近付けた。
「誰がそんな事を許すと思ってるの?」
「ひば……っ……ゴホ!」
 徐々に強まる圧迫に京子は身を捩る。 涙で滲む視界に映る雲雀の目付きが尋常ではなく、恐怖で冷や汗が出た。
 今までの自分との喧嘩では見なかった、彼が毛嫌いする人物と相対する時の顔付きに、雲雀がとてつもなく怒っているのを理解する。
 なぜそんなに憤るのか。
 興味のない女が離れると言ったとて何の支障もないだろうにと、本気で思うほど京子は待つ事に倦んでいた。
 彼女の半ば自暴自棄な空気は雲雀に伝わる。男は不快げに歯を鳴らしたが、京子の首からは手を放した。
「ゲホッ、ごほげほ……」
 途端に入り込んできた酸素にむせる。生理的に浮かんだ涙が散った。
 息を整える事が最優先で、雲雀の左足が床を踏み、右足がスカートを押し上げるのに気付くのが遅れた。男の膝は無遠慮に京子の足の間に強く押し付けられる。布越しの刺激に京子はビクリと背を反らした。
 その反応を見て雲雀が目を細める。
「こんなに僕に慣らされた身体で、離れるって?」
 クスクスと笑われて膝を前後に揺らされる。彼の望むように息が上がる自分が嫌で、京子は唇を噛み締めた。
 しかし、雲雀はそれが気に食わなかったらしい。無理矢理指に唇を割られ、それを舐めるよう強制された。
「んぐっ……ぅぅ……」
 彼の望み通りになんかなりたくなくて首を振る。指があっさりと引き抜かれたと安堵したら、すかさず雲雀の顔が近付いてきて唇を重ねられた。
 いつの間にか自由になっていた手で相手を引き剥がそうとするが、女の力は泣きたいほど弱い。余程抵抗が許せないのか、今度は雲雀の左手で頭上に一纏めに押さえつけられた。
「んんぅ!!」
 ぐちゃぐちゃと舌を擦り合わせるキスに意識を占められ、身体の力が奪われる。先程口内に入れられた雲雀の右手の指がスカートのウエストから下へ入り込んでも、逃げられなかった。
「やだ。嫌です、やめて!」
 拒否の声は感じさせられた快楽で上擦っている。雲雀は京子のショーツの中に指を滑らせ、濡れ始めている花芯を容赦なく引っ掻いた。
「あァっっ!」
 強い刺激に京子は悲鳴を上げる。彼の爪は最も弱いところを的確に抉り、彼女は自分の中心の潤みが増したのを感じて羞恥に悶える。
 雲雀は性急に京子の秘所広げていく。久しぶりの愛撫の乱暴さにそこは濡れていても痛みを訴えた。
「いや……痛いぃ……」
 子供のように嫌々と首を動かす。精神状態が肉体に作用しているのか、快楽よりも痛さばかりが強い。
 京子の様子からそれを悟った雲雀は眉目をピクリと動かすが、手は止めなかった。
「イイだけだったらお仕置きにならないでしょ」
「ひあっ!」
 内部のある箇所を擦られ女は背を仰け反らせる。雲雀の愛撫は正確に京子の弱いところを責めて、心に反して体が反応する。それでも感情が拒否を訴えているので痛みが消えない。バラバラな心身に苛まれ、身を捩らせるしかなかった。
 喘いでいると、雲雀の指が秘所の圧迫が消え、スカートの中からも腕が抜かれた。苦しさがなくなり安堵がこみあげ、手の拘束がなくなった事もあって崩れ落ちる寸前、抱き留められる。
「ひ、ばり……さ……」
 腰に回された腕に優しさじみたものを感じて、無意識に手が縋りつきそうになる。
 そんな京子の意識を引き戻したのは、踝まで長さがあるスカートが捲くられ、足が外気に触れる感触だった。
 下腹部に長い布地が纏められて、愛液で濡れたショーツがずらされる。
「ま、さか……っ」
 嫌な予感に喉がヒクと鳴る。太腿の内側に、いつの間にか取り出されたのか分からない雲雀の熱を感じた。
 自らの意図を女が察したと理解した男が口角を上げる。自虐的な悪魔のアルカイックスマイル。京子への答えもその笑みにある。
「……っっ……!!」
 昂りの先端が秘所に触れる。久しい彼の熱を身体は覚えていて、背に甘い疼きが走った。つぷつぷと内に沈むものに、京子は全力で拒否を示す。
「嫌っ! やめて、放してッ!!」
「ちょ、京子……!?」
 まさかこの状態で激しく暴れられると思わなかったのか、珍しく雲雀が焦った声を出した。
 欲の為に抱かれるなんて。身体だけの関係なんて。
 今まで恋人だったからこそ耐えられない。

「私に興味がないなら触らないで!!!」














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