囚われ姫ルート囚われ姫ルート設定/こちらの京子視点



 気付いて、いるだろうか。
「興味が湧きました」
 そう言うあなたが、一番泣きそうな顔をしていること。
「歌いなさい。僕のために」
 コモリウタ。
 あの二人が寝入る前、そんなものは知らないといったもの。

 彼の首に腕を回す。
 本当は、この人もあの二人も恐くて仕方がないけれど。
 どうしてこんなに胸が痛いのだろう。
「京子……?」
 不思議そうな声を出す彼が悲しくて、その頬と頬を合わせ、さらに頭を胸に抱きこむ。

 私が家族に与えてもらった当たり前のことを、彼等は知らないのだ。
 酷い人達なのに、思ってしまった。

 かわいそうだと。
 かなしいと。


「変な子ですね」

 いつもならすげなく振り払うだろう私の行動を、彼は止めない。
 その事がますます私を泣かせそうになるけれど、涙なんか流したら彼はきっと不機嫌になるに違いないから、必死に堪える。


 恐い。憎い。
 悲しい。哀しい。

 かなしい。
 いとしい。

 愛おしい。


 するりと、胸の奥で零れ落ちたのはなんだっただろう。




085:真に儚きは、




inserted by FC2 system